ひとつ1つのピースに宿る、デザイナーの思考と所作の記憶。
そのレイヤーをたどった先にJOHN MASON SMITH / JANE SMITHの核が静かに姿を現す。
積み重なった時間のなかで息づく、自分たち“らしさ”。
その手ざわりを、さまざまな角度から紐解きながら、いまを見つめていく。
ブランド設立から12年目を迎える〈ジョン メイソン スミス〉と〈ジェーン スミス〉。手がけるのは、デザイナーの吉田雄二と、和井田多佳。異なる場所で、幼少期から服に触れてきた二人が、バイヤーという共通のキャリアを経て、いかにしてブランドを立ち上げるに至ったのか。メンズの骨格と、ウィメンズの感性が溶け合う二人のクリエイションの裏側には、12年間変わることないモノ作りへの誠実さと、静かに、けれど力強く息づく二人のブレない軸があった。
Director/Designer: Yuji Yoshida
Designer: Taka Waida
手を動かすことから始まった、服作りの原点
福島県で生まれ育った吉田。幼少期から図画工作が好きで、自らの手でなにかを生み出すことが得意だったという。当時から「つくること」への探究心を持ち、自分の手で形にしていくその過程に確かな悦びを感じていた。
「振り返ると、子どものころから夢中で取り組んできたことが、自然と今の仕事につながっている気がします」
服への目覚めは、古着ブームに沸いた高校時代。青春18きっぷを握りしめ、数時間をかけて仙台や宇都宮、ときには東京へと足を運んだ。雑誌を読み漁り、いかに安く、いかに良い一着を手に入れるかに没頭する日々。
「将来は服にまつわる仕事に就きたい。心ではそう願っていましたが、当時の自分にとって、それはどこか現実的ではないものだと感じられて。一度は別の道を歩みましたが、どうしても、自分の中にあるその熱を手放すことができなかったんです」
19歳。吉田は洋服を仕事にする道へと進み、そのキャリアをスタートさせた。
ファッションを愉しむことが、日常の延長線上に
和井田の原風景は、日常の中にあった豊かな装いの記憶にある。いつも着物を粋に着こなしていた祖母に、ファッションを楽しんでいた母。和井田にとって、多様な色や生地と親しみ、「服を着る」行為を愉しむことは、生活の一部としてそこに存在していた。
「小さい頃から、自然と『ファッション』に興味を持っていたのだと思います。レストランやカフェで、ユニフォームを着ているお姉さんを見るのも好きでした。その場に合わせて“デザインされた服”を纏うことに、子どもながらに惹かれていたのかもしれません」
学生時代は『Olive』や『mc Sister』を愛読し、地元の古着屋に通い詰める日々。ファッションが大好きだったと話すが、意外にも「ファッションを仕事にする」という明確なビジョンはなかったという。大学の進学とともに上京し、英文科に進んだ和井田は、通訳など英語を活かした仕事に就く自分を、ゆるやかに思い描いていた。
二人のスタート地点、そして重なる場所
吉田のキャリアは、〈ラルフローレン〉や〈パタゴニア〉といった米国ブランドを扱うインポートセレクトショップから始まった。販売員としての第一歩を踏み出して以来、一貫して「アメカジ」の血筋を引く店で経験を積み、自身のスタイルを作りあげていく。
「今も自分のベースにあるのは『アメカジ』。これらのショップで過ごした時間が、僕のファッションの軸になっているかもしれません」
現場で感性を磨いたのち、セレクトショップにバイヤーとして入社。そこからは世界各地を飛び回り、新品、古着問わず買い付けに奔走する日々が始まった。
同じように、現場での経験を積み重ねていた和井田。セレクトショップのスタッフを経て、やがてバイヤーへと職種を広げる。その背景には、一つの思いがあった。
「やっぱり、心のなかでどこか海外を行き来する仕事に就きたいという思いがありました。だから、販売員をしながらも、いつか絶対にバイヤーになろうとチャンスを伺っていたんです。当時憧れのセレクトショップに入社して、4年目でその目標に辿り着きました」
お互い別のルートを歩みながらも、二人の道が少しずつ重なっていく。それぞれ「バイヤー」として、世界中のクリエイションに触れ、審美眼を磨き続けてきた二人。そんな彼らが、自ら服を『デザインする』側へと舵をきったのは、一体どのような背景からだったのか。
「ブランドへの別注企画の延長線上に、ショップのオリジナルがあるなどで、バイヤー主導のアパレル制作がありました。モノ作りのいろはを、現場の仕事を通して自然と覚えていったんです」と、吉田は振り返る。
その言葉を受けるように、和井田も、「バイイングだけにとどまらなかった」と頷く。
「一から生地を作ったりもして。当時はバイヤーの裁量が大きかったこともあると思いますが、とにかくさまざまなことに挑戦していましたね。そうした経験が、今のベースになっている気がします」
〈ジェーン スミス〉と〈ジョン メイソン スミス〉の始まり
その後、吉田と和井田はそれぞれの職場から独立。〈ジョン メイソン スミス〉と〈ジェーン スミス〉の輪郭が少しずつ浮かび上がっていく。その出発点について、吉田はこう振り返った。
「このままアパレルの仕事を続けるなら、どこかのタイミングで独立しなければと思っていたんです。そのとき、バイイングしたものを店頭に並べるというよりも、自分でモノづくりをするほうが、自然な流れに感じられました」
ブランドのコンセプトは“左利き”の架空の男性。最初のコレクションは、スウェット、白Tシャツ、ニット、デニムというスタンダードなアイテムを軸に据えた。
「ブランド名である〈ジョン スミス〉は、英語圏では代名詞と固有名詞、両方の役割があります。名もなき男性であり、私自身でもある。自分自身のための服でもあり、誰かのための服。そんな普遍的な存在であることを表したかったんです」と、吉田。
こうしてブランドをはじめていくなかで、和井田が徐々に合流していく。ウィメンズのラインがスタートしたのは、〈ジョン スミス〉の展示会に女性が来る機会が増えていったからだそう。
「僕はメンズ一筋でやってきたので、男性に向けた服が女性に受けると思わなかったんです。時代の後押しもあったかと思うのですが、メンズ服を女性が着ることがうまくフィットして。ただ、男性が女性に着せたいレディースブランドにはしたくなかったんです。女性のリアルな細いポイントをきちんと押さえたかったので、和井田に相談をしました」
2014年の秋冬から本格的に和井田がブランドに携わることになり、〈ジェーン スミス〉がスタート。「〈ジェーン スミス〉は、〈ジョン メイソン スミス〉がベースにあるので、私がそこにトレンド感や、女性らしい視点を味付けしていくような感じです。軸となる骨格を吉田が作り、私がそのトワルを着て考える。削ぎ落としたデザインのままなのか、要素を付け加えていくのか。メンズとウィメンズ、それぞれどのように展開していくかを二人で話し合いながら、コレクションが出来上がっていきます」と、和井田。
男性的なプロダクト視点と、女性的な社会性。二人の目線が重なり合うことで、ブランドはより強固なアイデンティティを確立していく。バイヤーとして、さまざまなモノを見て、そして自らの手で作ってきた二人だからこそ、到達できる緻密でリアリティのあるクリエイション。
「ひとつ作ったものに対して、どのようにしていくかを二人で話し合っていくので、そのぶん時間はかかるんです。ほとんどのアイテムを生地から作っているのですが、メンズが軸にあるので、生地の質感は少しざらっとした手触りのものや、打ち込みの良い無骨なものが多いかもしれません。そんな男女のバランスが、僕ららしいのかなと思います」
確かな「理由」がある服、着実な歩みの先に見えるもの
2014年からブランドを育て続けて、早12年。積み重ねてきた膨大なコレクションには、その時々の時代の空気と、二人の変わらぬ美学が刻まれている。これまでのシーズンを振り返り、特に思い入れのあるアイテムを尋ねてみた。
「こうして振り返ると、私はウールの生地を使ったアイテムが好きだなと思って。2015、2016年くらいに作ったチェスターコートが頭に思い浮かびました。メンズがスーツスタイルのときに着るような一着で、生地も重厚。当時、そんなアウターを女性が着るのがすごく新鮮だったんですよね」
今でこそユニセックスや、オーバーサイズがファッションとして定着してきたが、当時はまだ男女の装いに線引きがあった時代。服を通じてジェンダーをなだらかに超えていく。そんな自由な空気感を、〈ジェーン スミス〉と〈ジョン メイソン スミス〉は、ごく自然なかたちで体現していた。
一方で吉田は、2018年にスタートした「THE ARTIST.」シリーズの第一弾、写真家シェリル・ダンとのコラボレーションTシャツを挙げた。
「僕、Tシャツが大好きなんです。ヴィンテージのバンドTやムービーT 、企業のロゴものなど、プリントものが好きで着続けてきました。自分たちのブランドで作るなら、どんな形がいいだろうと考えたとき、頭に思い浮かんだのがフォトグラファーや、ペイントアーティストとのコラボレーションでした」
Tシャツの在り方として、吉田は「古着」になったときのことを想像した。その一枚が長い年月を経て、違う誰かのもとへいくとき。そこにブランドのロゴが大きく配置されているのは、どこか違う気がしたという。
「数十年後、どこかの古着屋で誰かがこのTシャツを手に取ったとき。僕が古着屋でプリントを見て『これ、いいな』と思うのと同じように、『この写真かっこいいな』と、純粋に感じてもらえるようなものを作りたいと思いました。ブランド名が前に出るよりも、そのTシャツとしてのストーリーを紡いでいくほうが、自分たちらしい服の在り方だなと思ったんです」
ただただ寡黙に、けれど情熱的にモノ作りと向き合ってきた〈ジョン メイソン スミス〉と〈ジェーン スミス〉。時代が移り変わっても、二人の根幹は変わらない。それは、本質を追求しながらも、常に新しい挑戦をし続けること。「これからもモノ作りと真摯に向き合っていきたいです。トレンドやファッション性も大事にしていますが、きちんと理由がある服を作りたい。このブランドを選んで着てくれる方に、自分たちの意思や温度が、服を通じて静かに伝わっていけば嬉しいですね」と、和井田。
その言葉に加えて、吉田もブランドの在り方に言葉を重ねる。
「ブランド設立からこの十数年で、取り巻く環境が本当に変わったと思うんです。世の中には情報が溢れすぎていて、たくさんのもののなかから、物事を見極めて、自分でなにを選択するかって、すごく重要なこと。僕らはこれまで積み重ねてきたことを、これからも着実に進めていきたい。服を通して、自分たちの本質的な部分を表現し続け、選んでくれた誰かの日常に、確かな価値観を届けていきたいと思っています」
INTERVIEW&TEXT: FUMIKA OGURA
PHOTOGRAPHER: MASASHI URA