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公開日 2026.9.16

AT THE CORE

ひとつ1つのピースに宿る、デザイナーの思考と所作の記憶。
そのレイヤーをたどった先にJOHN MASON SMITH / JANE SMITHの核が静かに姿を現す。

積み重なった時間のなかで息づく、自分たち“らしさ”。
その手ざわりを、さまざまな角度から紐解きながら、いまを見つめていく。

2023年にオープンした富ヶ谷の「JOHN MASON SMITH/JANE SMITH STORE」。
ブランド初の旗艦店となるこの場所で、内装の設計を手掛けたのが〈DAIKEI MILLS〉の中村圭佑氏だ。

独自の感性と確かな表現力で数々の空間を生み出してきた。ジャンルや境界線を軽やかに超えていくその自由な思考は、いかにして形作られたのか。中村氏の原点とものづくりに対する眼差しを紐解く。

DAIKEI MILLS : Keisuke Nakamura / Kazuki Sato
https://daikeimills.com

音楽と自然に囲まれた原風景から、UKカルチャーの中心へ


生まれ育ったのは静岡県浜松市。浜名湖の目の前という自然豊かな環境で、幼少期から学生時代を過ごした中村氏。姉の影響で3歳からクラシックピアノを習い始め、常に音楽と隣り合わせの日常を送ってきた彼にとって、芸術に興味を持つのは自然な成り行きだった。

「姉が音大に通っていたこともあり、『自身のクリエイティビティを発揮できる仕事や生き方って何があるんだろう』と考え始めたのが高校生の頃。映画が好きだったこともあり、そのタイミングで現代美術にも興味を持ち始めました。その一方で、部活はバレーボール部で運動にも打ち込んでいたので、坊主頭でピアノを習いに行く……みたいな緩急の差はありましたけど(笑)」

芸術とスポーツを横断するような学生時代を経て、大学はロンドンの美術大学へ留学。
海外にゆかりのある親戚がいることや、姉も留学経験があるなど、早くから国外へ目を向けることも身近な選択肢だったという。

「大学時代を過ごしていた2000年代初頭のロンドンは、ファッションもそうだと思いますが、アートもすごく勢いがある時代で。ダミアン・ハーストや、サラ・ルーカスをはじめ、刺激的なアーティストやカルチャーが街全体で盛り上がっていたんです。いい意味でカルチャーショックを受けました」

枠にとらわれない柔軟さ。「VACANT」から広がったクリエイティブ


留学中に出会った仲間たちとともに、2009年に原宿で「VACANT」を立ち上げる。
裏原ブームが落ち着いた頃、新たなカルチャーの過渡期における出来事だった。

「『VACANT』はその名の通り、“空っぽ”の場所。そこに人やモノが介在したときに、定義がつけられて、その空間が出来上がるようなイメージ。裏原ブームのあと、シャッター街のような状態になっていたあのエリアには、そういう場所が必要な気がして」

さまざまなアーティストの展示や、アパレルブランドのポップアップを行い、新たな文化の発信地点となった「VACANT」。
2019年に約10年間の営業に終止符を打つまで、東京のカルチャーシーンを牽引し続けたこの場所は、同時に〈DAIKEI MILLS〉がスタートを切った原点でもある。

「『VACANT』という場所自体が、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちと一緒にやっていたこともあり、自然とそれぞれの専門分野に枝分かれしていったんです。そのうちのひとつが、設計事務所として立ち上げた〈DAIKEI MILLS〉。25歳くらいのときにスタートしました」

中村氏は、建築を学生時代に専門的に学んだわけではない。

「祖父は建築家だったので、そういった角度から触れたことはあったんですが、僕は完全に野良からのスタートなんですよ」

と、笑いながら話す。
専門教育や既存の業界ルールに縛られず、建築という仕事の境界線を軽やかに超えていく。「VACANT」で培われた多様な人脈や感性に加え、中村氏自身が持つ“領域を持たない”という視点が、彼を唯一無二の表現者へと押し上げていく。

「今もそうですが、僕のなかで建築も音楽もデザインもアートもすべて地続きなんです。“芸術”や“美術”という枠の中にすべてがあって、その中から自分が何を選んで表現するかは自由だという感覚があります」

何を選択するのも自由という軽やかなスタンスと、枠にとらわれない柔軟なアプローチ。
そこに確かな表現力が重なり、やがて「CIBONE」や「ISSEY MIYAKE」といった商業空間から、「avex」や「Takram」などのオフィス空間まで、ジャンルを問わず数多くの設計業務を手がけていくこととなる。2023年にオープンした「JOHN MASON SMITH / JANE SMITH STORE」もそのうちのひとつだ。

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フラットな視点と余白が生み出す、「DAIKEI MILLS」の現在地


建築という専門領域のルールや手法だけに縛られることのない、中村氏の空間に対するフラットな視点はどこからきたのだろう。彼の表現の核となる部分を作ってきたのは、やはり海外で味わった圧倒的なカルチャーショックだった。

「他の家庭とは少し違う環境で過ごしていたかもしれないけれど、静岡の片田舎で自然に囲まれて育ってきたので、文化的な情報なんてまったく入ってこなかったんです。だけど、留学中に出会った世界各地の同世代と過ごすなかで、自分と圧倒的に情報量が違うことに衝撃を受けて。地元から初めて外に出てみると、世界にはあらゆる情報や、価値観を持っている側の人がいて、“当たり前レベル”を引き上げられた感覚がありました」

“当たり前レベル”。
中村氏は会社のメンバーにも「このレベルをどれだけ上げられるかが鍵だ」と話す。
それは単なる知識量ではなく、物事を捉える感度や解像度のことであり、自身の選択肢を広げてくれるもの。若いうちにさまざまな人と出会い経験をすることが、自身の感性や視座を高め、自らの世界を広げることに直結していく。

「田舎での原風景と、海外での刺激的な日々。まったく異なる環境や価値観を知っているからこそ、どちらかに偏らず、すべてをフラットに吟味して『なにがいいか』を選択できるようになったのだと思います」

そういった中村氏のニュートラルなまなざしは、さまざまなプロジェクトを進行するうえで大切にしている軸のひとつでもある。

「自己完結をせずに、あえて余白を残すことを大事にしています。常に考えているのは、お互いの持っている知識や力量をどう組み合わせていくか。みんなで共通の目標を掲げ、インタラクションを生み出しながら共に作り上げていくスタイルを意識しています。ひとりでできることには限りがあるからこそ、それぞれの引き出しを補い合いながら進めていく形が、自分にとって心地いいんです」

現在、「DAIKEI MILLS」のオフィスでは数カ国語が日常的に飛び交い、スタッフの半数近くを外国籍のメンバーが占めるなど、プロジェクトも含めて国内外の境界線がなくなりつつある。
中村氏が今見据えているのは、より高い次元でのグローバルスタンダードだ。

「〈DAIKEI MILLS〉を立ち上げてから、自分の表現を世界基準に押し上げることの難しさを感じてきました。ここ数年でようやく海外と仕事をすることが当たり前の環境になってきて、長年思い描いていたことが叶い始めてきたという実感があります。これからは今の状況をどこまで押し上げていけるか、それが自分のなかでの挑戦です」

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DAIKEI MILLS×Yuji Yoshida,Taka Waida


“あえて作り込みすぎず、その空間に余白を残す” ーー〈DAIKEI MILLS〉が提案する空間表現に、デザイナーの吉田と和井田が共鳴したことから始まった富ヶ谷のショップ作り。建物の記憶や素材本来の魅力を引き出しながら作り上げたこの空間で、〈DAIKEI MILLS〉の中村氏とプロジェクトを支えた佐藤さん、そして吉田と和井田の4人が集い、空間作りの裏側や、それぞれのものづくりに対する思考の共通点について語り合う。


ーまず、お二人が店舗のデザインを「DAIKEI MILLS」にお願いしようと決めた背景や、お声がけした経緯を教えてください。

吉田:青山の「SKWAT」を見たときに、完成されすぎていない空間の“余白”がすごく心地よく見えたんです。建物そのものの空間を活かしながら、赤い絨毯や建築資材のようなものが什器として配置されている。躯体と店内に置かれているモノとの予定調和ではないバランスがとても素敵でしたし、やりすぎず、どこか“抜け感”のあるデザインが印象的で、「DAIKEI MILLS」にぜひお願いしたいと思ったんです。

ー中村さんはお話をいただいたとき、〈ジョン メイソン スミス〉、〈ジェーン スミス〉にどのような印象を抱きましたか?

中村:音楽や映画といった背景や空気感をすごく感じました。いわゆるファッションど真ん中からのアプローチというよりは、自分自身が昔から好きで触れてきたカルチャー周辺の文脈を感じて、共感できる部分がありそうだなと思いました。

ーお店作りは、まずこの場所があってからのスタートということですが、実際の空間作りはどのように進められていったのでしょうか。

佐藤:空間を作るうえで僕たちはお客さんとディスカッションをすることを大切にしているのですが、お二人ともたくさん会話を重ねた記憶があります。内装のリクエストとしては、ショップに訪れて、“ファーストインプレッションで強い印象を残すものをどのように作るか”というお題と、お二人が持っている家具をどのように組み合わせていくか、これらが空間作りの軸となりました。

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吉田:そういったテーマに加えて、ディテールで最初に話した部分は照明と床。
「SKWAT」で使っていた照明を採用したいということと、床は光沢のある質感にしたいとお話しました。

ー確かに、特徴的な床ですよね。

吉田:古着屋さんなどで見かけるような、剥がした床そのままの質感もいいのですが、僕たちのショップではもう少し緊張感を持たせたくて。
ピカッとした床のほうが洋服も映えますし、照明の光が反射して空間を綺麗に見せることができる。ただ、やりすぎると入りづらくなったり使いづらい店になってしまうので、そのバランス感も相談させていただきました。

佐藤:あと特徴的なところといえば、入り口から中央にかけて立つ壁ですかね。このスペースを潔く壁で仕切るというだけで、空間の魅力を引き出せた感覚があります。僕らも色々と手を加えて、コテコテにデザインをすることはあまりやらなくて。
よく中村が話すんですが、“お寿司を作る感覚で、いいネタをいかに綺麗に切って、鮮度を保ったまま提供するか”。こういった部分をより体現できたのが、この空間かなと思っています。

今まで関わってきたプロジェクトのなかで、いい意味でいちばん手数が少なかったですね。もうこの場所ができてから3年半くらい経つと思うのですが、経年変化とともに床や壁もいい味を出してきましたし、ヴィンテージの家具とともに一緒にメンテナンスをしながら育っていくといいなと、今日ここに来て改めて思いました。

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吉田:あと、あまり造作しないほうがこの空間にとっては合っている、と提案いただいたのも印象的で。サステナブル的な視点になるんですが、要は作り込みすぎると、出るときにその部分を壊さなければならないし、建物自体に負荷がかかってしまう。
例えば、ラックが可動式になっていたり、取り付けられた什器は一日で撤去できる設計になっているんです。
「DAIKEI MILLS」の“やりすぎないで余白を残す”というアプローチとも重なる部分だと思うんですが、“空間のその後”までを見越して設計してくれるのは、内装の考えとしてこれまで自分になかったところなので、すごくいいなと思いました。

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ー特に気に入っている部分はありますか?

吉田: 先ほどもお話しした床ですね。外光の入り方や、照明が床に反射する表情がすごく素敵なんです。
一方で、壁を作り込みすぎていないバランスも気に入っています。壁は解体したそのままの状態を残しているのですが、特定の「国っぽさ」を感じさせないのが良さだなと。ここはどうしても日本だし、渋谷かつ富ヶ谷なので、建物にエリア感が出てしまうことがあると思うんですけど、この内装には日本でなくても成立するような、無国籍な空気感が漂っていると思います。

和井田:私は鏡ですかね。扉を開けるとフィッティングルームになっていて、すごく贅沢な空間の使い方だなと思いました。

吉田:最後まで仕上がりが想像できなかった部分ですね。洋服屋さんのフィッティングって意外と難しくて、内装の一部というよりは、空間をカーテンで仕切ったようなものが多いので、なんとなくそんなものを想像していたんです。だから試着室を鏡にすると聞いたときは驚きましたし、空間への広がりを感じさせるアプローチも含めて、すごく〈DAIKEI MILLS〉さんらしい提案だなと思いました。

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中村:僕、結構な確率でミラーを使うんですよ。 いわゆる鏡としての機能だけではなく、空間を拡張・操作する手法として用いることが多くて。

吉田: 全体的には空間の素材を活かしていただきながらも、この部分だけはしっかりと作られていて、そのコントラストがすごくいいなと思いました。中に入ったらまた違う印象になるのも気に入っています。

和井田:外側はスタイリッシュに仕上げられているのですが、中は鉄鋼ボードが剥き出しになったデザインになっていて。自然光も入りますし、気持ちいい空間なんです。

吉田:裏側までしっかりデザインされているというか、素材使いが効いているよね。

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ーお二人ははじめて空間作りをしたかと思うのですが、こうして仕事を一緒にするなかで、自身のクリエイションにおいて、新たに得た刺激やこれからの制作へのヒントなどはありましたか?

吉田:まずは素材使いですね。ギャップを生み出すアプローチだけでなく、素材に無理をさせないことも大事だなと。
やっぱり素材によって向き/不向きがあると思うので、これからはもう少し別の角度で素材と向き合うことで、表現の幅やアプローチの引き出しを広げられたらいいなと思いました。
あと、洋服は、“着る人”がいてはじめて成立するもの。例えば袖をまくったり、ボタンの開け閉めなど、着こなすうえでの“余白”があると、自由度も上がるし、その人に馴染む形が見えてくると思うんです。そうした空間作りの視点からも、とても学びがありました。

和井田:ファッションでは“サステナブル”という言葉をよく耳にしますが、建築の世界にも通底する考え方があることを知りました。
既存のものを活かし、自分たちが去った後も未来へ繋いでいく。そうして循環させていく視点は、私たちのものづくりでも大切にしていきたいです。

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ーこの場所が、今後どのように時間を重ね、ブランドとともに育っていってほしいと感じますか?

吉田:時間とともに経年変化していく点は、洋服とも共通していて。いい素材を長く楽しむためにはメンテナンスが欠かせないように、この場所も何年か経ったらメンテナンスや、もしかしたらリニューアルが必要になるかもしれない。そうした変化を楽しみながら大事に使い続けていきたいですね。
あと、ここは本当に自由度が高いので、ラックを取ればフラットな箱になる。そういった空間としての機能も、柔軟に活用していけたらと思っています。


ー最後になりますが、今回久々にお会いしてお話をするなかで、「洋服」と「空間」で、表現するアウトプットは異なりますが、共通する部分や、「ここがいいな」と共感したところはありましたか?

中村:さっきお話したように、僕らは「自分達のいる業界からどこまで脱却できるか」を常に考えています。お二人もそこは同じかなと思っていて、一歩引いた客観的な視点で自分たちの業界を見ている点が共通しているなと。もしかしたら“服以外”の領域にいつか向かうかもしれない。
僕らもそうで、建築に固執しているわけではないんです。表現のメディアを切り替えるような感覚で、いつでも別の領域に飛び出していける。それは映画を撮ることかもしれないし、また別のことかもしれない。そういった柔軟さをお互いに持っていられたらいいなと思いました。

和井田:グローバルスタンダードへの意識は、私たちにとっても今後の課題です。「当たり前の価値観を変えていく」という姿勢はすごく共通するものを感じましたし、私たちもこれからそう変化していけたらいいなと思いました。

吉田:中村さんが持つ“フラットな視点”や、“当たり前レベルを引き上げる”姿勢はとても大切なことだなと思いましたし、僕らも取り入れなければならない部分だと思いました。今後は海外進出も視野に入れています。為替や物価高の影響も含め、日本市場だけに頼る厳しさを感じているからこそ、中村さんたちが海外で活躍される姿を見て、改めて世界で勝負できる環境を整えていきたいと強く思いました。

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INTERVIEW&TEXT: FUMIKA OGURA
PHOTOGRAPHER: MASASHI URA